Healthcare Café meets がんノート。カフェで会話するように病気について語り合う

病気の「当事者」は患者さん本人だけではない。患者さんとそのご家族との対話イベント「Healthcare Café」を開催

2024年10月24日
Patient Centricity
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第一三共が武田薬品工業とともに2021年に作成した「非臨床段階からの創薬活動におけるPatient Engagementのためのガイドブック」。その内容に沿ってPatient Engagement(患者さんとの協働、以下「PE」)を実践する場として、複数の製薬企業が協働で企画する患者さんとの対話イベント「Healthcare Café*1」が2022年9月にスタート。第1回は武田薬品工業のPE活動をリードするPatient Centricity Expansion Team「PCET」が「聴覚障がい」をテーマに企画・開催しました。

同年12月には、第2回Healthcare Caféとして、第一三共のPE活動をリードするチームの一つであるCOMPASSが中心となって「Healthcare Café meets がんノート. 患者さんと製薬会社で一緒に創る世界」を開催しました。

そして第一三共が中心となって2024年6月に開催した第6回は、「Healthcare Café meets がんノート. 患者さんと製薬会社で一緒に創る世界 2nd」として、前回ご登壇いただいたがん経験者の方に加え、患者さんを最も近い場所で支えるご家族にもお話を伺いました。病気に立ち向かう「当事者」は、闘う本人だけではありません。愛する家族の病気を知った時の感情や、闘う本人ではないからこその葛藤を聞いた参加者は何を感じたのでしょうか。

今回のHealthcare Café でもグラフィックファシリテーション*2という手法を使い、(株)しごと総合研究所の皆さんに、患者さんの想いの視覚化・言語化をお手伝いいただきました。Storyの最後に、当日の様子を撮影したダイジェスト動画も掲載していますので、ぜひご覧ください。

第一三共 Patient Centricity特命担当の上野さん

「Patient Centricity*3は、自然に身につくものではありません。皆さんが育むものなのです。」

開会の言葉を述べたのは、Patient Centricity特命担当の上野司津子さん。いつも患者さんを自分の意識の中心におき、患者さんの声に耳を傾けて薬を届け続ける必要性を語ります。

前回に引き続き、進行を務めてくださった岸田さん

進行を務めたNPO法人がんノート代表理事の岸田徹さんは、25歳と27歳の時に胚細胞腫瘍が見つかりました。闘病時、病気に関する情報や経験談が少ないことに不安を覚えた岸田さんは現在、自身の経験をユーモアを交えながら発信したり、がん患者さんへのインタビューをYouTubeで配信したりしています。今回も、がんノートのインタビュー動画に出演経験のあるお二人のがん経験者とそのご家族から、さまざまなお話を引き出してくれました。

当時の気持ちを語り莉子さんとそれを見守る美香さん

「”日常”をお母さんと笑って過ごしたい」 がんに対する偏見に葛藤

一組目の参加者は三橋美香さん、莉子さん親子。美香さんは2011年に乳がんを発症。当時、莉子さんは幼稚園の年長さんで、息子さんは2歳。莉子さんが幼稚園登園中に、息子さんを連れて通院していました。莉子さんは今年大学1年生に。大きくなった今だからこそ言える当時の心境を振り返っていただきました。

莉子さんがお母さんの病気を知ったのは小学5年生の時。発症から長い間、美香さんは病気について莉子さんに黙っていたのです。しかし、莉子さんは病気のことを知る前から“いつも少しだけ体調が悪そうなお母さん”が気になっていました。夜、1人で涙するお母さんの姿を見て、なんとなく状況を察します。

「お姉ちゃんだから、私がしっかりしなきゃ。」お母さんをサポートするため、弟とケンカしないなどの“ママに迷惑をかけないためのルール”を作ったりもしました。小学校入学式翌日の初登校の日、友達は学校近くまでお母さんやご家族に送ってもらうのに、「一緒に行けなくてごめんね」と言う美香さんに、「大丈夫!行ってきます」と1人で学校に向かった莉子さん。「大好きなお母さんを支えたい」、当時から自然に考えていました。だからこそ、病気のことを知っても驚かなかったそう。加えて「元気だから大丈夫だよ」というお母さんの言葉に安心した莉子さんは、病気をすんなりと受け入れることができました。 しかし、少しショックだったのが周囲の反応。お母さんががんであることを友達に伝えると、みんな深刻そうに黙ってしまいます。「がん」という言葉には、死を待つしかないイメージがあったのです。「そんなことはないのに、お母さんは元気なのに。」「当事者」よりもむしろ、周囲が重く受け止めすぎてしまう事実に悩みました。 「子どもに心配させたくない。ワガママを聞いてあげたい。“ふつうのお母さん”でいたい」。

二組の話に聞き入る会場参加者

美香さんの想いには、病気に立ち向かう母親としての葛藤がありました。しかし、家族にカミングアウトしたことでより一層、家族の温かさや絆を実感しました。チャリティー番組や映画の影響で、がんに対するネガティブなイメージが大きくなりすぎていると莉子さんは言います。「お母さんと、“日常”を笑いながら一緒に過ごしたい。お母さんは『本当に病気があるのかな?』と思うくらい元気です。だからこそ、それができることをみんなに知ってほしい。」と話してくれました。患者さんやご家族に対する配慮や接し方について考えさせられるお話でした。

当時について語る坂井広志さん

「私が泣いてる暇はない」 泣き崩れる夫の姿を見て誓った

二組目の参加者は坂井広志さん、三佐子さんご夫妻。大手新聞社の論説委員を務める広志さんは、46歳の時に小腸がんを発症しました。階段を上るだけで息切れが止まらず、病院を受診するも原因は不明。その後、激しい腹痛で倒れて緊急入院し、検査を繰り返して小腸がんだと判明しました。

三佐子さんが今でも鮮明に覚えているのは、玄関で倒れる夫の顔色が泥の色だったことです。「ただごとではないな」と思いました。運ばれた病院では「原因は分かりませんが、腸閉塞になっているので手術が必要です。」と聞かされました。しかし、広志さんはできれば手術をしたくなかったそう。恐怖や不安から、「本当に手術が必要ですか?」と何度も医師に尋ねましたが、「がんかもしれないんです!」と医師に厳しく怒られました。

そして手術が終わり、三佐子さんに結果が告げられます。病名は小腸がん。5年生存率は10%前後でした。「この結果は、主人には退院の日まで告げないでください。きっと、抱えきれないと思うから。」三佐子さんは医師に頼みました。入院中は、夜中などどうしても、ご主人が1人になってしまう時間があります。その時に、病気について考えさせたくなかったのです。「退院すれば、ずっとそばで支えてあげられる。だからこそ、私がしっかりしなければ。」と三佐子さんは強く思いました。退院の日、結果を知って予想通り泣き崩れる広志さんを前に、三佐子さんは涙を流しませんでした。「泣いている暇はない。私が支えなきゃ。」二人三脚で広志さんの命をつなぐ覚悟を決めました。

小腸がんは、人口10万人あたり6例未満と言われる希少がん。数が少ないがゆえに、診療・受療上の課題が他に比べて大きいがん種です。「希少がんを患っているからこそ、長く生きて情報発信をするのが使命。」と広志さんは語ります。持って数年だと思った命ですが、8年もの時間を三佐子さんとつないできました。「当事者」の枠を広げ、希少がんの情報をよりリアルに発信するべく、広志さんは奮闘しています。

 

患者さん、そのご家族を囲んで語り合いました。

「患者さんとそのご家族にとって薬とは何なのか 車座になって語り合う」

二組の話を聞き終えた後、患者さんとそのご家族、製薬会社の社員がランダムに分けられた6グループで大きな輪になり、感想を共有しました。オンラインで参加された方の感想も続々と集まります。

「薬の有効性を優先したくなるが、長期的に服用することを考えて少しでも副作用が少ないものを作りたい」

「患者さんのことを、自ら知りに行くことが大切だと思った」

「副作用で味が分からないから、同じ食卓を囲むのに気を遣う、など、薬の副作用が家族に与える影響まで考えたい」

今まであまり考えることのなかった家族の視点に立った意見や、治療・薬との付き合い方を考え直すきっかけになったという声が多く上がりました。「当事者」を広げ、製薬会社の一員として患者さんとそのご家族のお話を実務に繋げていくことが求められます。

「患者さんの幸せを願う薬を作りましょう」と語りかけるCOMPASSメンバーの北澤さん

最後はCOMPASSメンバーの北澤さんからの、「病気を患者さんのものだけにせず、自分ごとにしていくことが大切。私は“抗がん剤”が“幸願剤”になれば、と思っています。患者さんの幸せを願う薬を作りましょう。」というメッセージとともに、第6回Healthcare Caféは終了しました。

二組のご家族の話に涙を流しながら聞き入る方も多く見られました。病気と闘う本人以外の「当事者」のことも考えながら、1人ひとりの仕事に向き合うきっかけとなった1日でした。

会場参加者の記念撮影

病気とは個人で背負うものじゃなく社会全体で共有するもの、という考えのもと、多彩な色合いのグラフィックでファシリテートしてくださった、しごと総研の山田さん

当日の様子を撮影したダイジェスト動画です。ぜひご覧ください。

再生開始時には、ミュートになるように設定してあります。ミュートを解除する際は、音量にご注意ください。

がんノートについてはこちら:がんノート|「あなた」か「わたし」のがんの話をしよう (gannote.com)

株式会社しごと総合研究所についてはこちら:株式会社しごと総合研究所 (shigotosoken.jp)

*1 Healthcare Café:第一三共と武田薬品工業が2021年に作成した「非臨床段階からの創薬活動におけるPatient Engagementのためのガイドブック」に沿って、Patient Engagementを実践する場として、複数の製薬企業が協働で企画する患者さんとの対話イベント。現在は武田薬品工業、協和キリンと当社の3社で企画・運営

*2 グラフィックファシリテーション:対話(はなし)の内容を、グラフィックを使いながらリアルタイムで見える化することにより、場の活性化や相互理解をうながし、参加者の主体性を育むコミュニケーション手法

*3 Patient Centricity:患者中心主義。

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