大気汚染・水質汚濁防止
様々な化学物質を扱う製薬企業において適切な化学物質管理は、重要な取り組み課題と考えています。大気汚染・水質汚濁防止のため、国内グループの各工場・研究所では法規制より厳しい自主管理基準値を設定し、モニタリングによる適正管理を実施しています。同様に第一三共製薬(上海)、第一三共ヨーロッパ(ドイツ)、第一三共ブラジルなど海外グループ会社の工場も、各国・地域の法規制を遵守するため、定期的なモニタリングを行っています。
土壌・地下水の汚染防止および対策
工場・研究所では、土壌・地下水の汚染防止に努めています。また、土壌汚染対策法および条例に基づき調査義務が発生した場合には、行政と協議の上、法令に則った調査を適切に実施しています。
さらに、事業所閉鎖・用途の変更など法的な規制を受けない場合でも、同様に法令に準拠した方法で調査を実施しています。
万が一、汚染が判明した場合には、行政に報告するとともに近隣の方々に対しても、適切に情報を開示し、汚染状況に応じた適切な対応(拡散防止、浄化対策など)を行います。すでに浄化対策等を終了した事業所では、継続的にモニタリングを行い、分析結果を行政、近隣の方々に報告しています。
土壌浄化対策の進捗状況
旧野洲川工場跡地(滋賀県野洲市) |
2006年に環境改善工事を実施後、地下水モニタリングを継続しています。その結果、一部の土地に汚染が確認されたため、行政と協議し、適正に浄化工事を実施すべく、土壌調査を実施しています。 また、1993年、工場跡地内に農薬原料のひとつである水銀が環境基準を超えて分布していることが確認されたため、行政の指導に基づき堅牢な地下保管施設を設置し、これらの土壌を適切に管理してきました。これまで漏洩事故や健康被害発生等の報告はありませんが、将来にわたる地域のより一層の安全・安心を考慮し、また、地元関係者の皆様のご要望等を踏まえ、地下保管施設を撤去することを2020年4月にプレスリリースし、関係者の皆様と協議・調整の上、撤去工事を実施しています。掘削時には土壌が飛散しないよう陰圧にした仮設テントで保管施設全体を覆う形に設置して飛散防止に努めるなど、周辺環境に影響を及ぼさないように配慮しています。 |
騒音・振動・悪臭防止
騒音・振動・悪臭防止に関する法令遵守のため、適切な対策と継続的なモニタリングを実施しています。
化学物質の取扱量の削減と排出量・移動量の抑制
人の健康や生態系に有害な影響を及ぼす恐れのある化学物質については、化学物質排出把握管理促進法のPRTR*1制度に基づき適正な管理を行っています。なお、バーゼル条約附属書I、II、III、VIIIに定める有害廃棄物の輸送、輸入、輸出、処理重量、および国際輸送した廃棄物はありません。
*1 Pollutant Release and Transfer Register(環境汚染物質排出移動登録)
2022年度PRTR対象物質の排出量・移動量(国内グループ)
(単位: t 、 ダイオキシン類はmg-TEQ)
PCB汚染物質等の保管・使用状況
全てのPCB機器は、2021年度までに適正に処理を完了しました。
医薬品の環境影響評価
当社グループは各国のガイドラインに基づき医薬品の環境影響評価を実施し、適切に対応しています。
医薬品とその分解物が環境に対し、ネガティブな影響を与える可能性を事業活動に伴うサステナビリティリスクの一つとしてとらえており、河川などの自然環境から検出されているという事実とそれらが自然環境に及ぼす影響について、社会的な関心が高まりつつあり、欧州製薬団体連合会(EFPIA)がEPS*2への取り組みを推進するグローバルな流れもあり、当社グループとして、その動向に注視しています。
引き続き、行政、業界団体、研究機関などと連携し、より適切なリスク評価・リスク管理の在り方について検討することも課題であると考えています。
*2 EPS(Eco-Pharmaco-Stewardship):医薬品のライフサイクルを通じた環境影響対策への自主的な取り組みや環境を意識した製品管理
製造プロセスの環境影響評価
生産開始後の医薬品製造プロセスの変更は、薬事関連法令の制約があるため、多くの時間と労力が必要となります。従って、製造プロセスの研究開発段階において、品質やコストだけではなく環境への影響も含めた幅広い視点で検討・評価することが重要です。当社グループでは、新製品の製造プロセスの設計にあたり、LCA(Life Cycle Assessment)の一種であるLIME (Life-cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)を用いて、製法開発の各段階(例:開発初期・治験薬・商業化の段階)で定量的に評価します。その際、製造時に使用する毒性・有害物質、製造時のエネルギー消費量、製造時に排出する廃棄物を一つの評価基準に統合し、評価値として算出しています。このLCAによる評価は新製品が対象とされており、2020年以降、全てもしくは一部を評価された製品のカバー率は全新製品の2/3を占めます。
この方法は、環境へ配慮した“グリーンケミストリー”と呼ばれるコンセプトに基づいた取り組みであり、新しい合成反応の開発に取り組み、環境汚染防止や原料・エネルギーの消費量を削減するなど、地球環境の持続可能性に配慮した製造プロセスを目指すものです。
一方、製造工程から排出される廃棄物を回収再利用する方法や安全性が高くかつ環境負荷を低くする処理方法も検討し評価しています。
これらの研究の結果により、最終的な製造プロセス(工業化製法)の環境への負荷は、研究開始時と比較し大きく改善(低減)します。
サプライチェーンにおける環境配慮
環境フットプリントの少ない原材料や部品の選択
・合成原薬の環境負荷低減のために、各製品の開発段階ごとに製造方法の環境影響を評価しています。製品開発のはじめに製造方法の環境影響評価値を算出し、毒性・有害性、エネルギー消費量、排出量において評価値が高い項目を把握します。開発の各段階で評価値を再計算しながら製造方法の改善検討を行い、EHS(Environment、Health、Safety)管理プログラムを通じて環境負荷の削減率を評価します。
・原材の調達や製造プロセス開発における環境負荷低減を図るために、プロセス解析ツールを活用し、バイオ医薬品の製造工程での二酸化炭素排出量を定量化しています。
・環境負荷低減のため、石油由来プラスチックからバイオマスプラスチックへの包装資材の転換を推進しています。既に固形経口投与用のペットボトルやシリンジトレイのバイオマス原料に切り替えています。
直接操業、生産、製造
・当社グループは、「第一三共グループ環境マネジメントシステム基本文書」に基づいて、EMS(Environmental Management System)の最適化を推進しています。特にエネルギー使用量の大きい生産機能を有する事業所(生産事業所)ではEMSの国際規格であるISO14001認証を取得しており、ISO14001認証の取得率は89.2%(CO
2排出量ベース)になっています。ISO14001未取得の生産事業所でも取得に向けた取り組みを進めています。
・これらの生産事業所を含む全サイトにおいて、エネルギー、水、廃棄物、汚染等について、年度ごとに環境目標を設定し、削減に取り組んでいます。
・廃棄物低減の取り組み例としては、バイオ医薬品の開発において、製造工程のプラットフォーム化により、原料の共通化を図り、期限切れ在庫の削減に取り組んでいます。
・その他には、品質契約締結時に、原料メーカーに対してSDS(安全データシート)の提出を求め、原料中の化学物質情報(性質や危険性・有害性及び取扱い等)を確認しています。
流通、保管、輸送
・営業物流では、1.倉庫での太陽光発電システムの活用、2.共同配送による輸送時のCO
2排出量の削減、3.リサイクル可能なパレットへの切り替えなどの取り組みを進めています。
・製品の安全な取り扱いのために、製品を運搬するドライバーや取引先にSDSを共有しています。
使用、運用、サービス/メンテナンス
・複数プロトコール間で薬剤を共有することによって、試験進捗の遅れや治験薬の使用期限切れ等による廃棄率を低減させています。
・治験における対照薬調達の適性化(対照薬を少量・高頻度で調達、また、可能な限り使用期限が長い薬剤を調達)により、試験進捗の遅れなどの際に発生する、使用期限切れ等による廃棄率を低減させています。
使用済み製品の管理
・第一三共ヘルスケア株式会社とテラサイクルジャパン合同会社が連携し、使用済の PTP シートを回収、リサイクルする実証実験を2022年10月から2023年9月まで横浜市で実施しました。実証実験では、横浜市内の薬局やドラッグストア、病院、公共施設等の60拠点に回収場所を設置した結果、回収量は108万枚相当(1,077kg)となりました。このプロジェクトでは、使用済の PTP シートがリサイクル可能な資源であることの認知向上と資源循環の仕組みづくりを目的としています。
生物多様性への取り組み
環境経営基本方針と中期環境経営方針において、生物多様性と生態系サービスに配慮した事業活動を行う旨を明記しています。これらの方針などに基づき、「生物多様性基本方針・行動指針」を策定しています。策定にあたっては、当社グループの生物多様性に関する取り組みや生物資源の利用状況、カルタヘナ議定書への対応状況などを国内外で調査し、当社グループと生物多様性との関係性評価、リスク・機会分析による課題抽出を行いました。(下記、生物多様性関係性マップをご参照ください。)
当社グループは、生物多様性の保全および生態系サービスの持続可能な利用が、事業を遂行する上で重要な要素であると考えています。社員の意識向上と理解促進をはじめ、取引先および民間団体との連携による環境保全活動の強化、環境負荷の少ない原材料の調達推進、生物多様性保全に資する社会貢献施策などを推進しています。
生物多様性基本方針・行動指針
基本方針
- 私たち第一三共グループは、環境経営基本方針において「すべての生命活動の基盤となる地球環境の保全を重要な経営課題」と位置付け、汚染予防、地球温暖化防止、循環型社会形成などの取り組みを通じて、生物資源の適正な利用、また化学物質などの排出を継続的に削減するなど、事業活動による生物多様性への影響を最小限にする努力を行って参りました。
- 引き続き、私たちは生物多様性保全の重要性を認識するとともに、生物多様性条約の理念を尊重し、以下の生物多様性行動指針に基づいた取り組みを展開し、持続可能な社会の発展に貢献していきます。
行動指針
1.
全ての事業活動における生物多様性保全への積極的な取り組みの推進 |
- 特に事業活動に伴う排気・排水・廃棄物による大気・水・土壌などへの負荷低減に引き続き取り組み、生物多様性への影響の回避と継続的な削減を推進します。
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2.
生態系サービス利用時の生物多様性への影響把握と持続可能な利用 |
- 事業活動において使用する生態系サービスの重要性を認識するとともに、それらの調達にあたっては、生物多様性への影響を把握し、可能な限り影響を及ぼさないよう配慮し、持続可能な利用を推進します。
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3.
遺伝子組換え生物の適切な利用と管理 |
- 創薬研究・生産活動において使用する遺伝子組換え生物については、引き続きカルタヘナ議定書と各国の法令に基づく適正な利用・管理を行い、バイオセーフティに努めます。
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4.
遺伝資源の適切な入手・利用と公正かつ衡平な利益配分 |
- 生物多様性条約、ボン・ガイドラインおよび各国の法令などに従い、遺伝資源の入手および利用については適切に行い、遺伝資源の利用から生ずる利益については公正かつ衡平な配分を行います。
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5.
ステークホルダーとのコミュニケーション、社内意識の向上 |
- 公的機関、民間団体などとのコミュニケーションの拡充、連携に努め、生物多様性保全に向けた活動を推進します。
- 社員への環境教育を積極的に実施し、事業活動と生物多様性との関わりや影響に関する認識と理解を高め、社内外での保全活動の推進に繋げます。
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生物多様性関係性マップ
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TNFD開示
当社グループは、事業を遂行する上で、生物多様性の保全および生態系サービスの持続可能な利用が重要な要素であると考え、2030年までのネイチャーポジティブ*3実現に貢献するために、生物多様性に関する取り組みを推進します。
2024年5月には、TNFD*4提言に賛同し、TNFD Adopter*5に登録しました。現在、当社の主力製品を対象に、サプライチェーンにおける自然関連リスクの概略評価を行い、重要課題の抽出や地域性分析を実施しています。この結果を踏まえ、2024年度中のTNFD提言に沿った初期的開示を目指しています。
*3 自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること
*4 TNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、自然関連財務情報開示タスクフォース):自然関連のリスク管理と開示の枠組みを提供するために2021年6月に設立されたタスクフォース。2023年9月にTNFDの最終提言(v1.0)として、企業と金融機関が自然関連課題を特定、評価、管理、開示するための枠組みを公表した
*5 2023年度、2024年度または2025年度の自社の企業報告において、TNFD提言に沿った開示を開始する意思を表明した組織のこと
エコロジカル・フットプリント
国内グループの事業活動における全ての環境負荷について、NGOであるGlobal Footprint Networkの専門家と協業し、生物多様性に係る指標である「エコロジカル・フットプリント(EF)」を算定しています。算定したEFは、当社グループの「環境負荷の低減と生物多様性保全との関係(トレードオフ)」の経年変化を確認しモニタリングすることで、生物多様性を含む総合的な環境負荷の指標として活用しています。
この取り組みは、COP10(第10回生物多様性条約締約国会議:名古屋)で決定した、愛知ターゲット(20目標)の達成に寄与する活動であることが認められ、「にじゅうまるプロジェクト」に登録されました。また、環境省の「生物多様性民間参画ガイドライン(第2版)」に生物多様性に関するモニタリングの取組事例として紹介されました。
生物多様性保全活動への取り組み
希少植物の保護
希少植物のキンラン(絶滅危惧Ⅱ類:環境省レッドデータブック)・ギンランの保護のため、館林サイトにある雑木林の自生地域(約1,000㎡)を立入禁止とし、貴重な自然植物の保護に努めています。継続的な保護活動によって、個体数の増加や繁殖範囲の拡大が成果として現れています。
キンラン
ギンラン
周辺環境との一体感のある緑化
第一三共バイオテック北本サイトは周辺の自然環境・生態系に配慮した環境保護に取り組み、防音工事や隣接する北本自然観察公園との一体感のある緑化に取り組んでいます。
新棟建設にあたり、様々な生物多様性に配慮した施策が認められ、2015年には「第7回 彩の国みどりのプラン賞」を受賞しています。この賞は、埼玉県が、特に優れた緑化を行い維持管理が優良な施設を表彰するものです。
当事業所は引き続き、緑化整備をはじめ生態系保護に取り組み環境保全に努めています。
WET試験の実施
事業所からの排水の生態系への影響を評価する目的で、昨年度に続き、2023年度も国内全ての工場・研究所(7事業所)において、WET試験*6による環境影響評価を行いました。その結果、河川等における水生生物への影響は懸念されるレベルにないことを確認しました。なお、2024年度は国内全ての工場・研究所において例年通り年1回のWET試験を実施し、排水の適切な管理および水質改善に努めています。
*6 Whole Effluent Toxicity試験。魚、ミジンコ、藻の生物応答を利用して、排水の総合的な毒性影響を評価する試験
WET試験採水状況
生物多様性を育む活動
近年、ミツバチや蝶などの花粉の運び手である「ポリネーター」は、森林伐採や農薬、温暖化などの影響で、世界各国で減少傾向にあります。ドイツのパッフェンホーフェン工場では、パッフェンホーフェンの町が始めたポリネーターを増やすための活動“Pfaffenhofen in Bloom“に協力し、工場敷地内で生物多様性を育む活動を積極的に行っています。約3,200m²のエリアに多くの花々を植え、昆虫やミツバチなどが生息できる環境を確保しています。
また、第一三共ヨーロッパ(ドイツ・ミュンヘン)ではに、新しいITデバイスを1台配布する毎に、木を1本植える取り組みを2022年4月から開始し、既に約200本の木が植林されました。この取り組みを推進するため、ドイツ国内に約3,000本が植林できる土地を確保し、サステナブルITに取り組んでいます。
工場敷地内の植栽
サステナビリティITによる植林活動
「生物多様性のための30by30アライアンス」への参画
当社グループは、環境省が事務局となって2022年4月に発足した「生物多様性のための30by30アライアンス」に2023年3月に参画しています。30by30(サーティ・バイ・サーティ)は、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させるというゴールに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標です。当社グループでは、生物多様性に関する社員の意識向上と理解促進のためのeラーニングの実施、生物多様性を保全するための目標設定など、30by30の貢献につながる取り組みを進めていきます。
「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」への参画
当社グループは、一般社団法人 日本経済団体連合会と経団連自然保護協会が提唱する「経団連生物多様性宣言・行動指針」に賛同し、「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」に参画しました。
当社グループは、ネイチャーポジティブの実現のために、TNFD提言に沿った分析・開示や生物多様性を保全するための目標設定、30by30に貢献する取り組み、社員の意識向上と理解促進等について推進していきます。