第一三共の取締役、専務執行役員およびヘッド オブ グローバル コーポレートストラテジー、CStOを務める福岡隆さん。創薬研究に力を注ぎ、入社後の早い段階で大きな結果を出すだけではなく、長年組織を率いて活躍し、周囲からの厚い信頼も得ているリーダーです。研究への情熱や、リーダーシップに影響を与えた経験、現在の想いを語ります。
医療・医薬、そして患者さんに貢献するために
福岡さんの幼い頃の夢は獣医でした。しかし学生時代に、素晴らしいサイエンスと出会い、「純粋に科学を追求すること」に強い興味を持ちました。そこで、最先端の研究に従事しながら医療や医薬の分野に貢献したいと、第一三共の前身・三共株式会社の創薬部門に入社しました。
そのわずか6年後、ある抗感染症薬の緑膿菌という病原菌に対する効果について、それまで知られていなかった知見を発見し、適応症の承認取得に成功しました。「キャリアのごく初期に医薬品開発で重要な貢献ができたことを誇りに思うとともに、身の引き締まる思いがしました」と福岡さんは振り返ります。
その大きさを真に理解したのは、福岡さんが携わった薬を患者さんに処方した医師と話したときでした。肺炎を患った末期肺がん患者さんにどの薬も効かなかった中、福岡さんと仲間が追求し続けた薬剤を使用したところ一晩で熱が下がり始め、数日で治癒したといいます。患者さんは退院して、貴重な残りの時間を自宅で家族とともに過ごせるようになったと告げられたのです。このことが、福岡さんの第一三共でのキャリアの礎となります。
「研究が患者さんの人生に与える影響を理解することで、私は会社の中で、決して揺らぐことのない深い目的意識を持つようになりました。創薬の使命の重大さに圧倒されもしましたが、今日まで役に立てる可能性のある人々の存在を決して見失うことなく歩んできました」(福岡さん)
その後は計16年にわたって抗感染症薬の創薬研究に従事した後、プロジェクトマネジメント、グローバル研究開発戦略・計画業務などを担い、2013年には社内のベンチャー的な組織であるベンチャーサイエンスラボラトリーの長として、その立上げと創薬リードを担い、複数の新化合物を臨床開発に導き入れました。その後、アメリカの子会社に2度目の駐在をして、ADCの開発体制の整備にも貢献する等、様々な役割を務めてきました。
変化に対応する人材を育てるリーダーとして
現在は第一三共グループ全体のビジョンの策定と経営戦略の立案・実行を牽引する福岡さん。その業務には、オンコロジーとスペシャルティメディスン、グローバルトランスフォーメーション、サステナビリティやPatient Centricity(患者さん中心の考え方)のマインドセットも含まれます。
そこで注力している仕事のひとつは、時代の変化に対応できる新世代の社員やリーダーを育成することです。
「創薬は厳しい勝負の世界。その中でも私が頑張れている根底には、自分が取り組んだ薬剤が世の中に出て、患者さんに届けることができたという経験があります。革新的な薬を創り、それを患者さんに届けることは、世界で最も素晴らしい『誇り』の持てる仕事だと思っています。その気持ちを常に持つことで、沢山の失敗や困難も克服でき、自分らしくのびのびと働くことができています。
またそうした挑戦の中での学びやレジリエンスが、これまでの自分自身の成長の糧になっています。経験の浅い方たちにも、挑戦を続けるために、自信になる成功体験を得てもらいたい。」と力を込めます。「人材育成は最も大きな目標の一つ。私の仕事は薬を創り、人を育てること。自分がどう思われるかより、この二つを大切にします」。
Patient Centric Mindsetを持って、一人ひとりが役割を果たせるように
福岡さんは、チームで共通の目標と成功の共有をすることで、インスピレーション(創造性)が生まれると考えています。
第一三共のパーパスは、世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献すること。そのために、今後もPatient Centric(患者さん中心)な技術革新や研究開発を重視していきます。
社員は様々なかたちで患者さんの視点やニーズとのつながりを維持し、自分自身や家族のことで個人的な経験をする社員もいるかもしれません。あるいは、患者さんの体験談を直接聞き、当社のペイシェントアドボカシーへの取り組みを通じて実際に支援する社員もいるでしょう。
社員一人ひとりが、ミッションを達成するための役割を果たすことも重要です。その役割を果たして得られた成功の共有が、チームにも良い影響を与えます。
福岡さんは長年にわたり世界中の同僚たちと協力することで、深い感銘を受けてきました。自らが早期に医薬品開発で重要な貢献ができたのも、長年多くの人々が医薬品を患者さんに届けるべく尽力してきたからこそだと力を込めて語ります。
「創薬と医薬品開発は、チームのメンバーがともに一丸となって取り組む挑戦です。私は第一三共において、才能ある人々が目標を達成するために部門や地域を超えて団結し、One Teamとして働くとき、患者さんのためにどのようなことができるかを見てきました」
Patient Centricityの下、社員たちが目標と成功を共有することの意味を、福岡さんはこのようにまとめています。
「革新的な医薬品を必要とする患者さんに届けるという一つの目標に向かって、私たちが心を一つにしてともに働くことにより、患者さんの人生に貢献できるという特別の機会が得られます。同時に、組織のミッションを進展させ、私たちの職業人、個人としての達成感をもって成長することができ、これが成功の共有の究極的な定義です」