グローバル研究開発ヘッド 竹下健一さん
2021年3月に、第一三共のグローバル研究開発ヘッドに任命された医師・医学博士の竹下健一さん。分子生物学の分野で患者さんのためにできることを模索し、がんの新薬開発に関わるようになりました。かつてはサックス奏者を夢見ながら、医学・製薬へと歩みを進めるようになったきっかけや、その中で抱いてきた想い、現在の挑戦について語ります。
サックス奏者としての道を歩もうとしていた
米国デラウェア州で育った竹下さん。プロのサックス奏者を目指し、米国のテレビで長年放映されている深夜のTVトーク番組「The Tonight Show」のハウスバンドのリーダーであったトランペット奏者・Doc Severinsen氏と共演することを夢見ていました。そのため、放課後にはサックスの練習やレッスンに明け暮れる日々。ハーバード大学に入学する際には、楽器の学びをより深めるためにバークリー音楽大学に編入しようと入念な計画を立てていたほどです。
その方針を大きく変えるきっかけとなったのは、ハーバード大学在学1年目のときに、品川の大井町に暮らす叔母を乳がんで亡くしたことでした。慕っていた叔母からはよく「お医者さんになって困っている人々を助けるように」と言われていたものの、真剣に受け取っていなかったという竹下さん。これを機に進路を変更、分子生物学に真面目に取り組み、エール大学で医学の学位を目指しました。その後、学術界や、製薬業界のAmgen社、Celgene社、およびKite Pharma社で大きな責任を伴う職位を経験。現在は、叔母が住んでいた品川を主要研究拠点とする第一三共のグローバル研究開発を担っています。
竹下さんが学び始めた分子生物学は、まだ揺籃期にあって未来の医学と捉えられていました。しかし、竹下さんの担当教授は、がんなどに対する医薬品や技術の開発に利用するには、DNAの生物学的作用をさらに解明することが不可欠と考えていたのです。
当時の医学では、血液学が最も早く分子生物学を取り入れており、竹下さんも分子生物学の中でも、骨髄機能や造血、白血病発生に関する専門家になることに専心。その後、患者さんの診療に加えて医学生への教育と、エール大学およびニューヨーク大学の研究室運営にも尽力するようになりました。 「アカデミアの研究室での研究は、楽しくて充実していましたが、患者さんのために直接できることは、非常に限られていると感じました。」と竹下さんは語ります。「製薬業界の研究は、患者さんへ、より直接的に、有意義な影響をもたらすことができると考えました。」
1つ1つの疾患、一人ひとりの患者さんにはそれぞれ特有の性質があり、治療には個々の性質に合った科学的アプローチが必要です。竹下さんは、抗体薬物複合体(ADC)技術に関する第一三共の科学的資産や専門知識、それに加えて、日本の製薬企業から、日本に基盤を持つグローバル製薬企業へ変革していこうとする姿勢に惹かれ、グローバル研究開発ヘッドとして当社の一員となりました。そこで、第一三共のサイエンスの深さや広さを改めて認識し、それを世界で活かせるものにしようとしています。
現在も品川の研究室から生まれる革新的サイエンスに感銘を受けているという竹下さん。明日の医薬品を創出するため、大好きなビッグバンドジャズに倣って、研究者たちが専門分野の垣根を越えて協力できるようサポートしています。ビッグバンドジャズが他のジャンルの音楽と大きく異なるのは、バンドメンバー全員のメロディ演奏から始まり、続いて、それぞれのメンバーが楽器を紹介しながら即興で演奏し、他のメンバーが優しく伴奏することで、自然と音楽が生み出されるところです。その後、すべてのバンドメンバーが一緒にメロディを演奏することで曲が終わります。感動的なのは、一人ひとりで生み出すものより、全てのパーツが集まったものは、はるかに素晴らしい、ということです。
研究開発リーダーのOur Storiesはこちら
研究開発戦略と取り組みについてはこちら