グローバルオンコロジー&スペシャルティメディシン リサーチヘッド 我妻利紀さん
第一三共の執行役員であり、オンコロジー研究のグローバルヘッドとして当社をリードする我妻利紀さん。抗体医薬が将来重要になると情熱をもって訴えることで第一三共の変革のきっかけを作り、研究を自ら進めてきました。世界をより良い場所にしようと、研究にかけてきた歩みや想い、これからについて、語ります。
我妻さんは、幼い頃に、がんによってつらい経験をしています。6歳の頃に、白血病で父親を失ったのです。その時から、病にかかった人、特にがんに苦しむ人々を救いたいという思いを抱き、持ち前の探求心と成長意欲を発揮して科学と医学の研究に邁進。東北大学で、オンコロジーとがん免疫療法の開発に重きを置きつつ、広範囲にわたる科学研究を経て、博士号を取得します。
1991年に三共に入社すると、抗HIV治療薬の創薬・前臨床段階における薬理評価でキャリアをスタートさせました。イギリスに渡り英国医学研究審議会(MRC)の共同センターで「サイエンス」と「ビジネス」の両面についてさらに学び、帰国後はオンコロジー研究に転向。ゲノムアプローチによる新しいがん標的の発見に焦点を当てた研究を開始します。
ASCOにおけるスタンディングオベーションの様子
三共と第一製薬が統合する数年前、我妻さんは会社の上層部に、「抗体医薬が今後重要になりうるため、三共の研究開発の柱として取り組むべきだ」と提案しました。抗体医薬品は、がん細胞などの目印となる抗原をピンポイントでねらい撃ちするもので、高い治療効果と副作用の軽減が期待できます。懐疑的な目にさらされる中で、漸く会社から了承を得ると、我妻さんはそのための研究チームを、たった4人の研究者と共に立ち上げました。
「当時、抗体医薬の創薬研究分野では他社が先行しており、すでに抗体ベースの医薬品に大きく投資して販売承認を取得している製薬企業が多数ありましたから、この分野へ参入しても成功は困難だと周りの皆が思っていました。私のこんなちっぽけなチームで挑んでいる様子はまともじゃないとも思われていたでしょう。」
我妻さんはそういった逆風の中、およそ20年間ひるむことなく強い意志を貫き通して社内の抗体研究の戦略的方向性を構築し、さらに、第一三共独自の抗体薬物複合体(ADC)の薬物リンカー技術の開発を手がけるチームを立ち上げ、その研究をリードしました。
第一三共は2022年9月現在、この技術を活用した5品目を臨床開発中で、その1つは、さまざまながん細胞の増殖を促すタンパク質であるHER2を標的とするがんの治療薬として多くの国で販売されています。この抗HER2 ADCについては、2022年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)のプレナリー・セッションにおいて、乳がんの治療を変革し得る臨床データが報告され、参加者からスタンディングオベーションが送られました。
「一つの小さなチームから始まったサイエンスが、一つの企業を変革するだけの大きな影響を与えることになるとは思ってもいませんでしたし、もっと重要なことは、それががん患者さんの治療に素晴らしい成果をもたらしているという点です。チームメンバーが非常に優秀で、彼らがいなかったらこうした成果は得られなかったでしょう。第一三共で私が何よりも誇りに思うのは、こうした研究者たちです」
- 第一三共 執行役員 兼 グローバルオンコロジー&スペシャルティメディシン リサーチヘッド 我妻利紀さん
現在、我妻さんは2つの大きなオンコロジー研究所を統括しています。その2つの研究所は、オンコロジー領域の創薬研究を担当する、生物や化学、薬理の研究者たちで構成されています。
創造性と完全さへのこだわりを重視する、そしてチームワークの文化が根付いた第一三共で、オンコロジー研究チームはADC技術に磨きをかけ、がん患者さんのための更なる治療の発展に向けて、新しい創薬ターゲットやパスウェイを見つけようと、研究に励んでいます。
「第一三共のユニークな文化の中でメンバーはお互いに刺激し合い、科学の限界を押し上げています。私たちのチームはきわめて強い情熱を持って、新しいサイエンス&テクノロジーを追求し、明日の医療を切り拓いていきます」
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