ペイシェントアドボカシーとは、患者さんの立場に立って、政策や制度面から問題解決に取り組む活動のことです。いまや製薬会社にとって、極めて重要な、患者さんと製薬会社をつなぐ必須な活動ですが、残念ながら、日本ではあまり広く認知されておりません。
かつて、製薬業界にとっての「アドボカシー」は、単に病気や治療法についての情報を患者さんに伝えることを意味していました。しかし、今は企業と患者さんコミュニティが、緊密に協力する時代へと移行しています。患者さんの声は、研究・創薬から治療へのアクセスなどの、あらゆる場面で、ますます重要になっています。
第一三共も2018年に、オンコロジー分野のペイシェントアドボカシー部門を立ち上げるため、Gissoo DeCotiisさんを迎えました。
病気に一番接しているのは患者さん
従来、研究者は患者さんと直接触れ合う機会があまりなかったため、医薬品の研究は科学にフォーカスしていました。一方で、患者さんは、常に自身の病気と共に過ごしています。治験へ参加するということがどういうことなのかを理解し、リスクとベネフィットを考えたうえで、自身の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)への影響はどのくらいあるのかなど、科学以外の視点でこだわりを持っているかもしれません。
「患者さん達に、自分たちも関与したい、という強い思いがあることは明らかです。しかし、例えば、患者さんが採血のために週3回もがんセンターに通わなければならない治験もあります。こうしたことが患者さんに大きな負担となり、治験への参加をあきらめてしまう場合もあります。患者さん達はこういった話を率直に語ってくれます」
患者さんの声に耳を傾けていくことで、治験の間の採血を近隣の病院で行うなど、患者さんにとってより良い手段を提供することができたと、Gissooさんは語ります。
「患者さんの声は、かつてないほど強まっています。患者さん達は、自身の生活の質や生存への願いについて、言いたいことがたくさんあるのです」
Gissoo DeCotiis, Executive Director, Global Head of Advocacy & Strategic Relations, Global Oncology Medical Affairs
「患者さんの声」を傾聴する
患者さんの声に耳を傾けるため、第一三共は1対1での対話や、外部の識者などを交えた意見交換会(アドバイザリーボードミーティング)の実施、患者さん参加イベントなど、いくつかの方法を取っています。その中でも有効な方法の1つが「フライ・オン・ザ・ウォール*1」方式です。
例えば、患者さんと医療関係者との交流会では、第一三共はただ黙って聞くこと以外に何の関与もしないことがあります
「交流会での議論を一切妨げないことで、私たちは多くのことを学ぶことができます。患者さんは、医療関係者に知りたかったことを安心して尋ねたり、自分が強く望んでいることを伝えたりできるのです」と、Gissooさんは語ります。
研究者に向けた、患者さん視点の働きかけ
また、アドボカシー活動においては、研究者側への働きかけも行っています。以前とは異なり、現在はインターネットによって、論文などの情報が大量に、簡単に手に入るようになっています。患者さん達の中には自分の病気に関心が強く、論文など専門的な情報にもアクセスする方もいます。そのため、論文などの専門的な情報であっても、一般の人にも理解できる言葉で示される方が、患者さんにとって役に立ちます。
患者さんが知りたいと思っていることに、より手軽にアクセスできるようにするため、第一三共は欧米において、英語による科学記事や論文の原著者に働きかけ、一般的で分かりやすい言葉で記事・論文を書いてもらう取り組みを進めています。これは患者さんに大きな影響を及ぼす新たな取り組みだと、Gissooさんは語ります。
「学術誌の記事を見つけ、辞書を使いながら読み込んでみたものの、結局よくわからなかった、という患者さんの話をよく耳にしてきました。理想を言えば、New England Journal of Medicineのような医学雑誌の記事と、それを医学の専門家でなくてもわかるように書き換えた記事が、同時に発表される。そんな日が早く来てほしいと思います」
患者さんに、より貢献するためのグローバルの取り組み
アドボカシーチームの活動範囲や影響をより拡大するため、GissooさんはPatient Focused Forumを設立しました。これは、第一三共が拠点を置く国のメンバーを含む、患者さん支援のネットワークです。患者さんコミュニティに関与していくためのポリシーや手順などを含めたガイドラインをグローバルで作成し、各国に周知しています。
Gissooさんは言います。
「誰もがお互いに学び合えるよう、ベストプラクティスの共有と、自由な意見交換を行っています。例えば、アメリカでは、ウェビナー形式のランチタイムミーティングに、患者さんを招いて経験談を社員と共有してもらう試みを行いました。同様の試みが、まもなくヨーロッパでも導入されます。」
Patient Focused Forumは、新たにアドボカシーチームを設立する国が、立ち上げをスムーズにするため、そして、社員がPatient Journey*2の全体像をより深く理解するために、役に立つ取り組みとなっています。
今後も患者さんのためにアドボカシーを推進していく
Gissooさんは、あらゆるタイミングで患者さんの声に耳をかたむけることを大切にしています。患者さんの真のニーズを理解するため、アドボカシーチームと共に、世界中の様々な患者団体と、関係を深めています。
Gissooさんの就任当初、オンコロジー分野で第一三共と関わりを持つ患者団体の数は、わずか一桁でした。しかし、2021年度には関与団体の総数が800を超えました。
患者さんへの揺るぎないコミットメントを掲げる第一三共が、オンコロジー分野のグローバルリーダーとして患者さんに貢献していくためには、患者さんとの関係性が極めて重要な役割を果たします。第一三共は、今後もGissooさんのリーダーシップの下、ペイシェントアドボカシーを強く推進していきます。