サプライチェーン本部長* 福手 準一 *取材当時
2021年4月、第一三共は第5期中期(2021-2025年度)経営計画と2030年ビジョン「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」を発表しました。 サプライチェーンのさらなる進化と事業活動を通じた社会貢献への想いについて、サプライチェーン(SC)ユニット長の福手さんが語ります。
今年度からスタートした第5期中期(2021-2025年度)経営計画(第5期中計)のもと、サプライチェーンユニットは、「ADC*1製品価値の最大化に貢献し、スマートサプライチェーンを実現するユニット」というビジョンを掲げています。 「スマートサプライチェーン」とは、作業の自動化や遠隔操作の実現といった工場におけるDX推進のみならず、調達、需給計画、物流などサプライチェーンのあらゆるシーンでデジタル技術を活用し、データを可視化・統合することで、新たなステージを目指すことを表現したものです。 現在、各現場の最新情報を一元化できる新たなデータベースの構築を進めており、生産現場においても、デジタル技術の導入による設備故障時期の予測や、画像処理技術による検査精度の向上などに積極的に取り組んでいます。
第一三共ケミカルファーマ(株)小名浜工場
第一三共はこれまで、化学合成により製造する低分子医薬品を主力としてきましたが、ADC製品をはじめとしたバイオ医薬品へシフトしていくため、第5期中計ではハード面での強化・拡充を図るべく、2025年までの大規模な設備投資を計画しています。国内外工場における設備増強を進めると同時に、今後のADC製品のグローバルでの上市に向け、外部リソースとして医薬品製造受託機関(CMO)の活用も戦略的に計画・実行し、需要変動を考慮した「分散型投資」を基本方針として、自社生産とCMO生産のバランスを重視しながら、生産体制の最適化を図っています。 一方、ソフト面での取り組みとして力を入れているのが、専門性の高いバイオ医薬品を扱えるバイオ人材の育成・確保であり、専門研修の実施や外部教育機関への派遣のほか、中途採用にも積極的に取り組んでいます。
製品の安定生産・供給に向けて注力しているのが、有事に備えてグローバルな視点から「QCD(Q:クオリティ、C:コスト、D:デリバリー)+R(レジリエンス)」の向上を図ることです。自然災害、パンデミック、地政学リスクなどのさまざまな要因から、医薬品のサプライチェーンを取り巻く環境は大きく変わり続けています。こうした状況下において重要なのが、あらゆる変化に対する「レジリエンス(抵抗力と回復力)」をいかに強く持てるかです。 具体策として、国内・海外での生産拠点の分散、自社生産とCMO生産の最適なバランスの見極め、複数の調達先や輸送ルートの確保、各工場での水害対策の強化など、第一三共グループ全体で多種多様な取り組みを行っています。 頻発する自然災害やCOVID-19によるロックダウンに起因する国際物流の混乱など、グローバルサプライチェーンが不安定化する中で、調達リスクをいち早くとらえて、バックアッププランを準備しておくことの大切さを強く実感しています。サプライチェーンにおいて重要なことは「継続する力」であり、昨日できたことを今日も確実に、そして明日も安定して行えることが求められています。そのためには、どのようなことが起こっても事業活動を継続できるよう、未来に目を向けて、日ごろから対策を講じておくことが欠かせません。今後も強靭な生産・供給体制の構築に尽力し、あらゆる変化にいち早く対応できる仕組みを整えていきます。
第一三共プロファーマ(株)平塚工場
先ほどお話した「QCD+R」に加えて、これからの工場のあり方を考えるうえでは、「GD(Green & DX)」というキーワードも欠かせないと考えています。 その一例として、第一三共グループでは自然採光の活用や太陽光発電の導入などを推進しており、環境負荷低減に向けて現場と一体となって取り組んでいます。また、サステナビリティという観点では、国籍や性別などに関わらず、誰もが働きやすい職場づくりにも注力しています。今では当たり前になっているバリアフリー設備のように、10年後、20年後の社会を見据えて、事業を通じて課題解決への貢献を図っていきたいと考えています。 第5期中計では、2025年や2030年が一つのゴールとして示されています。こうした数字だけを見ると遠い未来のことのように思えますが、実はとても身近なものであると感じています。「想像力は創造力を育てる」という言葉があるように、未来を想像し、ロードマップを描き、いち早くアクションを起こしていくことで、世界中の人々にとって価値あるものを生み出すことができると信じています。これから5年、10年先の未来を見据え、日々着実に歩んでいきたいと思います。
太陽光発電の導入で環境価値を生み出す工場へ(前編)
第5期中期経営計画はこちら