Backstory05 次世代ADC開発に取り組む研究者たち(前編)

2人の集合写真
研究開発本部 研究統括部 モダリティ第一研究所第五 G 太田一平Ippei Ota
研究開発本部 研究統括部 ディスカバリー第一研究所第二 G 高塚敦子Atsuko Takatsuka
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第一三共の ADC(抗体薬物複合体)技術は、次世代 ADC の開発へと発展してきている。 初期の ADC 開発に携わった研究者たちに続いて、次世代 ADC 開発の最前線で働く研究者たちに話を聞いた。

新しい治療薬を待ち望むがん患者さんに、少しでも早く薬を届けたい

「自分や家族ががんの診断を受けて、治療の選択肢がなかったら、絶望すると思うんです。 2人に1人ががんにかかる時代、私自身、がんにかかることは他人事ではなく、まさに自分のこととして考えています。 一つでも良い治療の選択肢を作り出したい」
オンコロジー(がん)分野の薬理研究を行う高塚敦子さんの仕事は、「この病気を治すためには、どんな薬を作ればよいのか」というコンセプト考えること。いわば創薬の最初の一歩を担っている。
現在取り組んでいるのが、次世代 ADC 技術の開発だ。
高塚さんは、入社当初、ADC 開発を牽引した我妻利紀さん  の部下だった。
第一三共の ADC技術が誕生するプロセスを身近に感じながら研究者としてのキャリアを積み重ねたのち、 ADC の構成要素である抗体、および ADC 研究を行うリーダーを務めた。今年で入社17年目。 現在は 2 人の子供を育てながら、次世代 ADC 研究のチームリーダーを務める。
「たくさん医薬品の候補を出しても、思ったような効果が出ない、効果は出ても安全性に懸念があるなど、さまざまな段階でストップがかかります。最終的に患者さんのもとに届けられる医薬品は、ほんのわずかです」
そのような試行錯誤が続く中、臨床試験(新薬の効果や安全性を人で確かめる試験)に携わるという経験は、研究者たちの患者さんへの想いを強める1つのきっかけになっている。
「私にとって臨床試験計画に携わるのは初めての事なので、患者さんの役に立てるかもしれないという可能性が明確に見えることで、責任感とやりがいを強く感じます」と高塚さん。
臨床試験は米国やヨーロッパの研究者とも共同で行うため、臨床試験段階のプロジェクトに携わるメンバーは自宅からオンラインで早朝や深夜のグローバル会議に参加することも多いという。
「英語でのコミュニケーションに苦労する時もありますが、わからないことはどんどん質問して、必死に食らいついていきます」

高塚 敦子さん

成功率 2 万 3 千分の1に挑む

高塚さんのチームによる薬理研究の結果、見出されたコンセプトを、実際の薬へと形にしていくのが、太田一平さんが携わる合成研究だ。
ADC は、がん細胞に結合する「抗体」と、がん細胞を攻撃する「薬物」が、「リンカー」と呼ばれる化合物で結びつけられている。抗体に薬物を結合する技術を ADC 技術といい、太田さんは、薬物とリンカーを化学的に合成して、抗体に繋ぐところまでを一貫して行っている。
入社 7 年目の若手研究者として、薬のもとになる化合物を合成するための実験に明け暮れる毎日だ。
「理科の実験のような感じで、フラスコの中で化学反応を起こしたり、試験管を振ったり、実際に手を動かす仕事です。まだ世の中にないものを作れる。世界で誰も作ったことがないオンリーワンのものを自分たちで作れるところに合成研究の魅力を感じています」
第一三共では、社員が直接患者さんの声を聴く機会があり、太田さんは、そのときの話が強く心に残ったと言う。
「実際にがん患者さんから闘病経験についてお話を聞く中で、自分が携わった薬も誰かの治療に役立つかもしれないと感じました。また、学会や論文では、データとしての情報しか得られませんが、実際に患者さんから、吐き気で家を出るのもつらかった、というお話を聞くと、体への負担が少ない薬を何とかして作りたいとより現実感を持って考えるようになりました」

化合物の開発は、2 万 3 千個の化合物を作って、1個が薬として認められるかどうかという知恵と技術と忍耐力の作業だ。そんななか、「自分が携わった化合物が次世代 ADC の候補になったことは、一番うれしかったです」と太田さんは声をはずませる。

新しい薬が患者さんのもとに届けられるまでには、いくつものプロセスの中で、失敗と試行錯誤が繰り返されており、患者さんへの思いを胸に秘めた多くの研究者たちが日々、奮闘している。

※所属等は掲載当時の情報

太田 一平さん

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