2030年ビジョンの実現に向けたHealthcare as a Serviceの実現

「患者さん、家族、社会を笑顔に」――第一三共が取り組むHaaSの目指す姿です。一人ひとりの一度しかないライフジャーニーに寄り添い、治療だけでなく健康促進~予防~予後ケアにわたりヘルスケアサービスを提供することで、一人ひとりのトータルケアを実現し社会課題解決に貢献していきます。

「医薬品を通じて病気の治療に寄与する」という生産者(製薬業界)の視点から、「健康の維持や回復を目的としたときに医薬品は手段の1つである」という生活者(市民)の視点へシフトしたとき、ヘルスケア産業の提供価値は大きく拡がります。

トータルケアエコシステムで目指すHealthcare as a Serviceの実現

第一三共は従来の創薬企業からヘルスケアカンパニーへと進化し、「患者さん、家族、社会が笑顔に」なる姿を目指します。

HaaSがつくる未来の笑顔の図

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これまでの製薬企業としての役割は、医薬品による治療を通じて、健康に貢献するという製薬業界目線でのアプローチでした。この目線を逆転させて、生活者(市民)視点でのゴールから捉えると、健康になる、または現在の状況を維持するにはさまざまな手段が考えられ、それをシームレスに繋ぐことが重要ということがわかります。

製薬業界視点の健康と生活者視点の健康の違いの図

つまり、医薬品の提供は医療の一部であり、医療もまた健康の維持・回復・増進という視点においては一部に過ぎません。この視点に立って私たちが医薬品提供による病気の治療・予防にとどまらず、生活者一人ひとりの課題、困りごとを解決してWell-Beingの実現することを目標として再定義したとき、ヘルスケア産業の捉え方も大きく変わることになります。これが「Healthcare as a Service(以下、HaaS)」であり、トータルケアを実現するサービスのことです。

HaaSは、データや先進技術の活用によって、一人ひとりに寄り添った最適なヘルスケアサービス・ソリューションを提供します。トータルケアには、健康促進から予防、治療や重症化の予防、さらに健康寿命延伸まで幅広い領域が含まれ、その創出には、第一三共だけでなく健康・医療領域で同じビジョンを持つ企業・団体やデータプロバイダー・テクノロジー企業との協業が欠かせません。私たち第一三共は、トータルケアを実現するための仕組みであるトータルケアエコシステムの実現に向け取り組んでいます。

トータルエコシステムとトータルプラットフォームの全体像

医薬品事業との相乗効果が期待できるがん領域へのアプローチを起点とする

当社は2025年度の目標を「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」とし、当社ADC技術を搭載したがん治療薬の研究開発を進め、世界中に治療薬を提供しています。そして、がん領域は、現在も満たされていない医療ニーズが多く、革新的な医薬品の創薬が望まれていることに変わりはありません。

しかし、がんを治療するだけでは、がん患者さんが健康を取り戻し、笑顔で暮らせるわけではありません。第一三共ががん患者さんの協力のもと行った調査では、治療薬の副作用によるQOL低下をはじめ、がん患者さんの「困りごと」は多岐にわたります。療養後の仕事や自身や家族の将来について、治療が長期化すれば経済的な課題も拡大するかもしれません。< /p>

こうした課題に対するアプローチの1つとして、がん患者さんの生活と治療の両立を支援するモバイルアプリケーション開発を株式会社CureAppと共同で進めています。がん薬物治療は外来診療で行われることが多く、診療と診療の合間の自宅で過ごす期間にアプリを使用することによって、がん周辺症状や薬物治療による副作用を適切に管理し、患者さんのQOL向上に寄与できる可能性があります。

このようなデジタル技術によって診断や治療の支援や健康増進に役立つサービスをSaMD(Software as a Medical Device:プログラム医療機器)と呼び、第一三共の治療薬開発およびがん領域における知見と、CureApp社の治療用アプリの開発経験のシナジーによって、患者さんのQOL向上を図ります。アプリは、医療機器承認取得、保険適応を目指し、臨床試験の準備を進めています。

なおSaMDの中でも治療用アプリのように疾患治療を目的としたものは「DTx(デジタルセラピューティクス)」と言われています。

第一三共がHaaSに取り組む意義

第一三共のパーパス(存在意義)は、「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」ことです。また、2030年ビジョンとしては「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」を掲げています。いずれも「医薬品」というワードが含まれていないことは、特筆すべき点です。

究極的には、医薬品が盛んに使用される社会より、一人ひとり異なるライフジャーニーにおいて必要なサポートを途切れることなく提供できる社会の方がWell-Beingの総和は大きくなるはずという信念に基づくものです。

そのためには、短期的な自社のビジネスとしての視点ではなく、Well-Beingに資する仕組みを作ることが先決と捉え、トータルケアエコシステムが確立され、自走できるようにパートナー企業や団体との協力を推進しています。

2023年10月から、異業種の連携事例として味の素株式会社(以下、味の素社)との食事や栄養に関する課題解決に向けた協業がスタートしました。介助が必要な人に対して、味の素社が開発したAI搭載献立支援サイト「ReTabell(リタベル)」の普及を共同で進めています。

具体的な例として、加齢や薬の副作用に伴って体調や嗜好が変化し、摂食に関する困りごとが放置されると、栄養摂取が不十分となり、治療の継続・完遂に困難を来し、QOLが低下するという悪循環に陥ることがあります。一方で、医療関係者や介助者が「介助を必要とする人」に対して食・栄養関連のケアをする機会と時間は限られていることが多く、一人ひとりの体調・嗜好の経時変化に応じた食事相談を実施することは難しいと言われています。

「ReTabell(リタベル)」を通じた協業活動は取り組みのごく一部であり、スタート段階に過ぎませんが、食品やアミノ酸の研究で培われた味の素社の知見と、治療領域での第一三共の強みを合わせて、食・栄養に関連する困りごとに寄り添う新たなサービスや製品の開発にもつなげていきたいと考えています。

トータルケアエコシステムを支えるトータルケアプラットフォーム

トータルケアエコシステムの構築に欠かせないのが、膨大な健康や疾患などに関する個人のデータを活用することです。第一三共では、これをトータルケアプラットフォームと名づけ、散在している個人の健康情報および医療情報を1つの共通IDで管理するIT基盤の整備にも取り組んでいます。

そのプロトタイピングとして、ウェアラブルデバイス「Fitbit」を用い、ヘルスケアデータを収集・統合・解析し、トータルケアエコシステム・プラットフォームに活用していく取り組みを開始しました。国内グループ会社の社員、約1,600名が参加し、Fitbitと健康診断のデータを個人が特定されない形で統合解析し、新たな健康指標の探索や、新しいヘルスケアサービス・ソリューション開発につなげていきます。

健康医療データによる最適な健康・医療ソリューション提供のフロー図

データを提供する個人はライフジャーニーで最適な健康サポートやケアを受けられるようになり、データ蓄積によって新たな医療・健康に関するサービスが生まれることは社会全体によいインパクトを与えるものと期待されます。

疾患の領域を広げて未病や予防にもチャレンジ、社会課題解決にも貢献する

第一三共ではHaaSのファーストステップとして、がん患者さんにフォーカスし、トータルケアエコシステム構築や新しいデジタルソリューション開発の2つの柱を普及していきます。2030年には、疾患の対象領域を広げるとともに、治療から未病・予防・健康促進も含めた総合的なアプローチを行い、最終的には社会保障費の抑制や健康寿命延伸など社会課題に貢献する未来像を描いています。

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